徒然なるままに


己の欲望に忠実な落書きブログ。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--)|
  2. スポンサー広告

白き晩春の候

真田兄弟で幼少期弟×兄の散文。
桜の時期になると、やっぱり真田兄弟が浮かんで涙目です。
たたんだので、続きからどうぞ。→


  桜の花弁が宙を舞う。風に揉まれて二転三転し、地へ吸い込まれるように落ちて行く。終わりを告げているのだ、と足元に散乱する花畳を踏みしめながら、信之は舞い散る桜に覆われた白い季節を眺めた。
 鮮やかに一斉に潔く咲いて、後顧の憂いなど一切なく散る姿は、幸村が羨望する生き様に酷似していた。弟は死ぬために生きている。死に際を飾る花は、多くなくてはならない。だから花が咲き誇るように生きる弟は、信之の目には痛いほど鮮やかに映った。
 死の萌芽を迎えた幸村へ向ける兄の瞳はどこか遠く、信之は弟を通して彼方の桜を見つめていた。

 彼方の桜――幼い頃、兄弟で見上げた桜の大木。二人で手合せをした後は必ずここへ訪れ、何を話すでもなく二人で見上げた。そよぐ春風が汗ばんだ頬を掠め、心地よさに目を閉じる。すると一陣の風が桜を吹き上げ、兄弟の頭上に花びらの雨を降らした。風が止むのを待って瞼を開けば、お互い桜に埋もれているようだ、と二人で破顔。弟は子犬のように頭を左右に振るわせ花弁を落とすが細かい所までは落し切れず、残りは兄が優しく払い取った。弟がきれいになったのを確認してから、兄は体に纏う花弁を払い始めるが、その手を阻止するように掴んだのは、熱を帯びた小さな手。
「どうかしばらく、そのままで」
 なぜ?と兄が尋ねると、弟は返答に窮したようで上手く言葉を探せず、黒々とした瞳が忙しなく右往左往し、当てのない視線は宙を彷徨う。弟の泳ぐ視線を追いかけるように兄が顔を覗き込むと、観念したのか訥々と言葉を並べた。
「兄上が」
 俯く弟の顔が赤い。鍛錬の熱が体から抜けないのだろうか。と、言葉を待つ間、兄はまじまじと弟の幼顔を見ていると、泳ぎ回っていた黒い目と不意に視線がかち合う。その目はまるで煤を溶かしたような色だった。
「あなたが、桜に抱かれているようで美しい、と」
 ―そう、思いました。と、言葉尻を濁しながら言い終えた弟の頬はさらに赤く、朱を擦り付けられたように染まっていた。弟の頬の熱が、掴まれた腕を介して注がれていくように、次第に兄の頬にも朱が差し始める。兄の肌は血が透けるように白いが、今は肌の下を流れる血が熱を帯びて沸き立つように耳まで紅潮していた。そんな兄を掴む弟の手はやはり熱いままで、兄弟は熱の逃がし方が分からず桜に囲まれ立ち尽くした。
 時折抜ける風が桜を揺らす。梢のさやぎは聴こえただろうか。桜の吹雪は見えただろうか。それを知るのは兄弟のみ。
 掴んだ兄の腕を引き寄せたのは弟。自分より一回り小さい手に、どこからそんな力が出るのだろうか、と兄が不思議に思うのも束の間。弟は背伸びをし、少し高い兄の顔に唇を寄せた。慣れない高さに唇は整った鼻梁を掠め、こそばゆさに兄が相好を崩す。まるで子犬がじゃれているようだ、と。そう話す兄の緩んだ口元に、ようやく重ねた弟の唇はひどく乾いていた。
 出口を閉ざされ、いよいよ逃げ場を失った熱は焼けるようで、籠った熱は四散することなく互いの腹中で燻るばかりであった。溜め込まれて燻った熱が胸からせり上がると、湿り気を帯びた呼気になって口の端から漏れる。濡れた吐息は乾いた唇を潤し、その心地よさに弟は夢中になって兄の熱を吸気した。
 白い腕を掴んでいた弟の手は外れ、暫し空を切ると兄の脇腹へ添えられた。下から上へなぞるように這う無邪気な手は兄の思惟を鈍らせ、その行為に惑溺させる。ただただ熱に浮かされるまま口を吸い合う兄弟の足は地に着かず、支え合うよう互いの背へまわした手は火照っていた。まるで命が燃えるように、兄弟の身は焦がれた。
 ふと、晴天に暗雲が立ち込め、生ぬるい風が二人の間を裂くようにして抜ける。春風にそぐわぬ湿りを帯びたそれは雨雲を連れ、瞬く間に驟雨を呼び込んだ。雨に頬を打たれた兄は、熱が引いてゆくのを感じ、その口を、その手を、そっと弟から離した。
 「戻ろう、幸村。きっと皆が心配している」
 努めて兄を装う声は、弟を優しく諭す。夢から現に戻ろう、と。弟には、そう聞こえた。見上げた兄の頬はすでに白く、熱の面影すら感じられない。纏った花弁は剥がれ落ち、雨に濡れた兄の肌は寒々しげに粟立っていた。
 一方、弟は全身の熱が冷めやらず、降り注いだ雨粒は首筋から蒸気となって立ち上っていた。日に焼けた頬は赤黒く、血を思わせる。弟の瞼は夢の中のように微睡み、光の失せた眼睛に映る己の姿が、溶けた煤に飲み込まれているような錯覚を兄は抱いた。
 帰参を促すために弟の手を取ったが、その身に宿る熱に兄はいよいよ血の気が失せる。冷えた指先は痺れて力が入らず、未だ醒めやらぬ弟を夢から引き上げることなど、到底できなかった。
 辺りは煙る雨で、乳色の霞に埋もれる桜は白かった。

 ―早く散ってしまえばいい。信之は彼方の桜に散華を願いながら、幸村を一瞥した。弟は満開に咲き誇っており、散り際を求めるように命を燃やしている。その様はやはり目に痛いほど鮮やかで、信之は薄氷のような双眸を静かに閉ざす。
 あの瞬間、兄弟の命は燃えていた。確かに信之の身は焦がれていたのだ。信之の冷えた四肢は、幼い頃に弟と分かち合った熱を偲ぶように震えた。白き晩春の終わりは近い。
  1. 2016/03/24(木)|
  2. 戦国無双4
  3. | コメント:0
<<春爛漫 | ホーム | 百花繚乱の章>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

ときつ屋

Author:ときつ屋



初めていらっしゃった方は『はじめに』をご覧ください。

鎌倉後期~南北朝初期を捏造創作し、版権物(主に無双シリーズ)の二次創作を取り扱っており、かつ女性向けの嗜好となっております。
免疫のない方はご注意を。


版権元とは一切無関係です。



ツイッター

SMS

国史国文同人検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。